「胡粉(ごふん)」は、日本画において
「白色」を表現するのに欠かせない絵の具です。
しかし、少しだけ扱いにくい点も。
それは「溶くのに時間がかかる」
「何度か使わないと、発色の具合がつかみにくい」
というあたりでしょう。
しかし、胡粉の白のよさは
そのふんわりとした、あたたかな白。
少し透けのあるところも、
独特のしっとり・柔らかな質感を醸し出してくれて、
日本画らしさを演出してくれる絵の具でもあります。
今回はこの胡粉について
種類・使い方
また、その他の白絵の具のことも
すこし詳しくご紹介します。
胡粉の使い方を知りたい方
日本画の白について知りたい方は
ぜひ読んでみてください。
【胡粉の種類】
胡粉は、牡蠣貝やホタテ貝の貝殻を砕き、絵の具にしたものです。
胡粉の種類により、粒の細かさや、原料の種類が異なってきます。
それによって実際に日本画に描く際には、
発色、つまり白さの度合いが違ってきます。
上羽・白虎印の胡粉では
- 「飛切(とびきり)」
- 「白鳳(はくほう)」
- 「寿(ことぶき)」
- 「白雪(しらゆき)」
という種類があり、上に行くほど粒子が細かいです。
他の絵の具メーカーさんのものも
これに準ずるランクがあると思います。
一般的に、一番下の「白雪」は
粒子が一番粗く、下地用とされます。
白さも、塗り重ねても少々明るさのない白になる感じです。
いちばん上の「飛切」は粒子が一番細かく、
主に仕上げ用とされます。
真っ白になります。
それでは日本画の白は全て、「飛切」でいいのかというと、
実は「飛切」にもデメリットが。
それは、画面が「割れやすい」
ということです。
日本画は、顔料をニカワと混ぜて、
画面に定着させていきます。
その顔料があまりに均一に細かすぎる場合
ニカワに柔軟性がない場合など
色々な要因が重なって
絵を描いて乾いた後に、
表面にピキピキ…と、ヒビが入ってしまうことがあるのです。
そのことを、「画面が割れる」といいます。
絵を描いた後に放置した絵皿の、
残った絵の具の表面が割れているのを
見ることがあるかと思います。
(特に水干や顔彩など)
それと同じような感じですね。
少し長くなりましたが、つまり
粒子の細かい「飛切」だけを
分厚く重ねるなどすると、
画面割れの危険が増えるのです。
ですから、「飛切」は、仕上げに使うなどに限り、
その他の種類も適宜使っていくのがいいです。
下地に厚めに塗りたいときなどは、
「白雪」胡粉の他に方解末などの
粒子の大きさの違う絵の具を混ぜるなどして、
画面割れを防ぐ工夫もします。
ちなみに、私がいた美大の日本画科では、
初めに「白鳳」「白雪」を揃えるように言われました。
これも一つの目安になるかと思います。
【胡粉の使い方】
用意するもの
- 胡粉
- 乳鉢、乳棒
- 膠(にかわ)
- 絵皿
- 筆洗
★参考記事:はじめての日本画材お買い物リスト
胡粉は、他の岩絵の具と違って
膠と定着させるための作業が少し多いです。
これは、胡粉の細かい粒子に膠をしっかりとつけ、
絵の具を画面に定着させるために必要なこととされています。
この作業が少々面倒ではありますが、、
絵を長期保存することを考えると
昔から伝わる方法で準備をすることは大切だといえます。
それは、何百年前の日本絵画が
現在も保存されていることを見れば明らかです。
そのやり方で、長期保存が可能であるということを
実際に示してくれているからです。
それに、胡粉の白はやはり日本画の表現にとても便利ですから
ぜひマスターしましょう!
乳鉢と乳棒で擦る
胡粉は、箱から出したときには
製造工程で乾かしたままに、
パキパキと割れている、薄い板状です。
これを、乳鉢と乳棒で擦ります。
サラサラ粉状になったと思ったら大丈夫です。
絵皿で膠とまぜる
絵皿に胡粉を入れ、膠を加えます。
注意点は、たくさんの膠を一気に入れないこと。
膠用スプーンなどを使い、少しずつ膠を入れては
指でこねて、様子を見ならまた足していきます。
この後に絵の具を団子状にまとめていくのですが、
膠が多すぎるとベタベタしてお皿についてしまい、
まとまらなくなってしまいます。
だんだんと胡粉がまとまってきています。
この辺りからは本当に数滴ずつ加えます。
胡粉の様子が急に変わるときです。
団子状にまとめ、百たたき
胡粉がだんだんとまとまってきたら、団子状に丸めましょう。
絵皿についている胡粉もポンポンとくっつけてしまい、
なるべく無駄がないように。
それを絵皿にたたきつけて
胡粉と膠をしっかりとくっつけていきます。
これを「百たたき」といい、
百回くらい叩きつければしっかり定着するといわれます。
絵の具と膠の量によっては
途中で乾燥してしまうようなこともありますが
様子を見てやってください。
基準としては、団子状の胡粉の表面に照りがでてくれば
しっかり出来ているといえるようです。
みみたぶ程のやわらかさにつまめるくらい、とも言われます。
ひも状にのばす
③の胡粉を両手ではさみ、
ヒモ状に伸ばします。
前段階までうまくいっていれば、
このとき胡粉がうどんのように、
よく伸びてくれます。
この後、あく抜きをする方もいらっしゃいますが、
しなくても通常の使用には問題ないので飛ばします。
再び膠で溶く
ひも状の胡粉を皿に蛇のように置き
上から胡粉と同量くらいの膠を加えて
指で混ぜます。
(このあたりの工程が、人により、流派により
「お湯を加える」だったり、
「あく抜きをする」だったりします)
かたまりがないように、指でつぶすように溶いていきます。
胡粉を溶くプロセス全面にいえるのですが、
しっかり定着させたいがために
膠を濃く作りすぎてしまうと
それぞれの作業がちょっと大変になります。
特にこの、膠で溶いていく作業は
なかなか指で胡粉の塊をつぶせない!
などということになります…
ほどほどの濃さでいきましょう。
クリーム状になればOKです。
このくらい膠としっかり練っておけば、
定着面での心配はまずないでしょう。
※日本画の膠の量は、
まずは和紙にしっかり定着させることが大事ですが、
その上で、できるだけ膠は薄く・少なく使うのがよいとされています。
これは、絵の具の発色をよくし、
画面割れを防ぐためです。
水で溶く…完成!
トロトロになった胡粉に、水を加え
自分で使いやすい濃さに溶いて使います。
初めは指で、ある程度からは
筆や刷毛で濃さの様子をみます。
もし大きな面積を下塗りするなどで
かなりの水を加えてしまったときには、
さらに、適宜膠も加えるようにするといいでしょう。
【胡粉の使い方】保存について
胡粉は生ものですが、数日なら冷蔵庫で保管できます。
そのとき使う量を別の絵皿に取り分けておき
翌日使う分はラップをして冷蔵庫に入れて置けますし、
人によっては百叩きをしたあとの
団子状の胡粉を
冷蔵・冷凍保存する方もいっらっしゃるようです。
私は「冷凍」はトライしたことがありませんが、
食品と同じように考えると
なんだか出来そうな気がしますね。
日本画のいろいろな白い絵の具
上に挙げたもの以外の種類の胡粉や、
白に見えるけど、使うとどうなの?
という絵の具があります。
色々な白系の絵の具について紹介します。
その他の胡粉【貝殻由来】
「花胡粉」
下地用の、荒めの胡粉。
胡粉以外の白 【土由来】
「白土(はくど)」
焼き物でいう、カオリンとほぼ同じ
含水珪酸アルミニウム。
保水力があり、塗った後割れにくい。
色味は、胡粉よりクッキリとした白という感じ。
胡粉以外の白 【石由来 】
「面胡粉」
材料は石灰石。きめこまかく粒が整えてあり、発色もいい。
「岩白」
半透明の白い岩絵具。
「水晶末(すいしょうまつ)」
半透明の白系岩絵具。
方解末よりも輝きがある。
「方解末(ほうかいまつ)」
半透明の白系岩絵具。
下地に使って、でこぼこしたマチエールを作ることが多い。
粒子の細かさによる、番手の違いあり。
胡粉以外の白 【その他】
「チタン白」
より強い白。
西洋の絵の具のチタニウムホワイトと
ほぼ同じと思われます。
まとめ
こうして見ていくと、胡粉意外にも様々な白が使えるなぁと思います。
そして、改めてなぜ日本画の白は胡粉と言われるのかというと
①白色の柔らかさ
②薄く、厚く、盛り上げなど表現の工夫ができる
②安価で広い面積を塗れる
この辺りが、胡粉が主に使われる理由かなと思われます。
しかし、「はっきりとした白を使いたい」などの理由で
の他の白絵の具を取り入れていくのも全く問題ありません。
室町期以前の日本画などでは、今の貝殻胡粉ではなく
白土などが白として用いられていたという
分析もあるようです。
絵の具自体の個性を楽しむ日本画。
色んな自分なりの使い方を
描きながら見つけていきたいものです!
★合わせて読みたい:日本画材の使い方についてはこちら