日本画 技法一覧【墨からマチエールまで・まとめ】

こんにちは、画家の atsuko です。アートで暮らしを豊かにするヒントについて書いています。
日本画作品(一部)

日本画作品(一部)

盛り上げ技法 日本画
盛り上げ技法

日本画の技法一覧

日本画の特徴は、日本古来の
独特な材料を使うことです。

墨、岩絵の具や、箔など
これを使い、和紙の上に描いていきます。
日本画の画材について詳しく
日本画の基本的な描き方の流れについて

材料が複雑なので、技法も様々。

このページでは、数ある技法を1ページにまとめてみました。

制作の参考に、また
鑑賞の助けになるといいなと思います。

日本画の技法① 【筆を使って描く】

たらしこみ

尾形乾山 蔦紅葉図 1732年以降 The Met Collection
尾形乾山 蔦紅葉図 1732年以降 The Met Collection

水を先に引き、その上からたっぷりの絵の具を乗せ
水と絵の具のにじみを生む。

または、絵の具を置いた後に、濃度の違う絵の具を後から乗せて、
にじみもようを生む。

琳派の画家に顕著にみられる技法です。

ぼかし

葛飾北斎 軍鶏図 1838年 The Met Collection
葛飾北斎 軍鶏図 1838年 The Met Collection

絵の具を置いたら、その周囲を別の筆で広げてぼかす。

この作品では、鶏の羽に美しいぼかしが
多様されていますね。

絵の具を置く前に紙を湿らせておく/
ぼかす筆に水をつける/つけない など

やり方により効果も様々。

重ね塗り

薄い色を下の色の上に置き、色の重なりをつくる。

または、濃い絵の具で不透明風に重ねる。

日本画は粒子の大きさの違いを
いかして制作していくので、

一番奥深く、探求の尽きない部分といえそうです。

上から掛ける

背景に広い面積の重色をしている
背景に広い面積の重色をしている

重色の一部ともいえますが、

部分的または全体に、
薄い絵の具を掛ける。

色調や明度を整えたり、
胡粉を掛けて霧がかった雰囲気を出したりと、

用途は様々。

胡粉下地を塗る

部分的な下地塗りで描き起こす
部分的な下地塗りで描き起こす

ここでは、制作の初めに塗っておく
全体の下地ではなく、

部分的に描き起こす場合の下地を紹介します。

画面にある程度の下地を塗ってしまうと、

花や人物などをその上に描くときに
明度、彩度が下がってしまいます。

そこで、上から描きたい部分に
胡粉下地を塗り、

その上から鮮やかな絵の具を乗せると
きれいに発色してくれます。

胡粉下地を塗った部分は
周囲の画面から一段浮き出てくれるので、

奥行き感も表現することができます。

ためぬり

含みの良い筆にたっぷりの絵の具をつけて

形に絵の具をためるように塗ります。

日本画の技法② 【マチエールをつくる】

マチエール、いわゆる絵肌をつくる方法。

画面全体に、または部分的に

ボコボコ・ザラザラさせたり、盛り上げたりと
表現の幅が広がります。

絵画において、マチエールはとても大事ですね。

写真では伝わりづらい
手書きの絵画だからこそできる、

感性に訴える部分だからです。

私も、マチエールがしっくりきてこそ、
作品がうまく表現できたなと感じます。

盛り上げ

周囲より盛り上がった部分をつくる
周囲より盛り上がった部分をつくる

上の写真でいうと、赤い花の上の青い部分です。

白系の絵の具で盛り上げて、青系の絵の具を掛け、
紙やすりで軽く研ぎ出しをしています。

盛り上げ技法は、

盛り上げ胡粉白土(はくど)などを使い、
紙の上に盛り上がりをつくります。

その凹凸をマチエールにしたり、
形態を強調させることができます。

古くは、腐れ胡粉をつくって盛り上げるなど
大変な手間を掛けて行われていた方法ですが、

現代では割れにくい膠を使ったり、
また保水性のある白土を使ったりと

材料を工夫することで、
もっと手軽に出来るでしょう。

流す

絵の具を流す
絵の具を流す

この作品では、赤茶色の粗めの絵の具を、
白っぽい画面の上から流しています。

水分の多い絵の具を画面の上から塗り、

画面を立てる・斜めにすることで
絵の具を流す効果をつくります。

絵の具の粗さや、

画面を立てる時間
(数秒〜数分まで)により、

かなり様々な効果が出来ます。

絵の具を流しながら上から水を引く
一度流して乾かした後、二重に流す

などのやり方もあります。

絵の具流し
絵の具流し

海綿

海綿のテクスチャー
海綿のテクスチャー

画材店で売られている海綿に絵の具をつけ、
タンポ/スタンプの要領で絵の具を画面につけます。

海綿の穴の空き具合、密度により模様が変わり
独特なマチエールとして使うことができます。

海綿は濡らしてフワフワにし、

水気をよく絞って
絵の具をつけましょう。

同じことが、食器洗いのスポンジや
ガーゼの手作りタンポなどでも出来ます。

スポンジでは、スポンジの形の角が出やすいなど
それぞれの特徴があるので、

自分の作りたい雰囲気に合わせて
やってみてください。

ラップ

絵の具を塗り、乾かないうちに
ラップを掛ける。

剥がすと、しわしわの模様がつきます。

もみ紙

揉み紙にききょう
揉み紙にききょう

和紙を揉(も)んで
シワをつけたり、

絵の具を二重に塗って
揉むことで、

上の層の絵の具を剥がした模様をつける
といった技法。

ぐっと和の雰囲気が出せます。

やり方について、詳しくはこちらで解説しています。

→揉み紙のやり方を解説

紙を重ねる

紙を重ねる
紙を重ねる
紙を重ねる2
紙を重ねる2

本紙の上から、別の紙を貼ることができます。

コラージュのような感じともいえます。

質感に大きな変化をもたらしたり、
薄紙の下の色や描写を透かしたりと

面白い表現ができそうです。

日本画の技法③ 【墨の表現】

それぞれの技法は絵の具と似ていますが、

墨の細かな粒子により、効果が顕著に出せるという特徴があります。

渡辺始興 山水屏風図 18世紀前半 The Met Collection
渡辺始興 山水屏風図 18世紀前半 The Met Collection

濃淡で描く

いうまでもなく、墨は濃淡をつけて表現できます。

雪舟が、墨の濃淡をいかして
独特の水墨画法をつくりあげたことが

有名ですね。

かすれ

筆に含ませる墨の量を少なくして、

かすれ模様をつくれます。

にじみ

先に紙に水を引いておき
上から墨を載せることで

滲み模様ができます。

たらし込み

俵屋宗達工房 子犬図 17世紀前半 The Met Collection
俵屋宗達工房 子犬図 17世紀前半 The Met Collection

にじみと同様の方法で、

水の上から墨をのせて
自然の滲み模様をつくります。

形態の中にこの模様をつくることが
たらし込みとよく言われ、

琳派の画家が多様しています。

墨流し

墨流しを背景に
墨流しを背景に

水を張った容器に墨を流し、
その模様を紙に写し取ります。

西洋のマーブリングと同様の方法。

にじみのある紙で

にじみのある紙で
日本画制作をするとき、

ドーサ引きという滲み止めをしてある紙を使うことが多いですが、

最初はドーサなし(生という)の紙に
墨のにじみをつくっておき、

その後ドーサを自分で引くことで、

滲み模様の上から絵の具で描くということができます。

ちなみに、ドーサを引かないと
岩絵具はのりませんので、

岩絵具の制作には
ドーサ引きは必須となります。

日本画の技法④ 【箔の技法】

狩野山雪 老梅図襖 1946年 The Met Collection
狩野山雪 老梅図襖 1946年 The Met Collection

金箔や、銀箔は
絵画に華やかさをもたらしてくれます。

箔には金銀以外の種類や

独特の使い方が様々にあり、

  • 平押し
  • 砂子
  • 切金
  • 盛り上げなど、

それぞれの特徴をいかし、和の雰囲気を出す事もできます。

詳しくはこちらで解説しています。

→箔のいろいろな種類や使い方を解説

日本画の技法③ 【墨線にまつわる技法】

鉤勒こうろくほう

尾形乾山 水際椿図 1741年
The Met Collection
尾形乾山 水際椿図 1741年 The Met Collection

線描き用の筆を使い、輪郭線を引く方法。

この作品では、椿の部分がそうです。

地面には、琳派の作品らしく「たらしこみ」が使われていますね。

没骨法

酒井抱一 柿図屏風 1816年 The Met Collection
酒井抱一 柿図屏風 1816年 The Met Collection

輪郭線を描かず

抑揚のつく筆の筆跡や
墨/絵の具の濃淡で直接形態を描いていく方法。

この作品では、柿の葉が分かりやすいです。
木の幹や地面の部分にも、

墨線での輪郭は引いていないようです。

付け立て

円山応挙 (1733–1795) 応挙画譜より
円山応挙 (1733–1795) 応挙画譜より

付け立て筆などを用い、

筆の抑揚で描く方法。

日本画の技法 【おわりに】

これだけ様々な技法のある日本画の世界。

次はどれを使って描こうかな!と
ワクワクしてしまいますね。

ご質問があれば、遠慮なく
専用メールアドレスよりお問い合わせください。

→関連記事・日本画の描き方・初めから終わりまで

→関連記事・日本画の画材・基本7アイテム

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