日本画の画材とは?【始めるのに必要なもの・これだけ知っておこう】

こんにちは、画家の atsuko です。アートで暮らしを豊かにするヒントについて書いています。
日本画作品(一部)

日本画作品(一部)

日本画

日本画をイチから始めるなら。必要な材料や基礎知識

美術館で「日本画」と出会った!
「日本画」を体験して、日本文化に触れてみたい

といった方に、

日本画って、どんな絵の具で描いているの?
どんな道具が必要なの?

といった基礎知識をご紹介します。

日本画…まず知っていただきたいのは、絵の具がとても特徴的ということです。

その絵の具とは、「岩絵の具」といい、
古来、これは天然の色とりどりの岩石を砕いてつくるものです。

つまり、岩絵の具は宝石で描く絵の具、とも言えるのです。
岩絵の具で描いた絵の表面は、キラキラと輝きます。

日本画は、この「岩絵の具」を使い、和紙や絹の布に描いていきます。

それに加え、墨や金箔・銀箔なども、日本画のイメージとしてお持ちのかたもいらっしゃるのではないでしょうか。

この、他の絵の具とは違う特徴のある画材で描く、「日本画」について
始めるガイドになればと思います。

日本画の画材① 【絵の具】

岩絵の具(いわえのぐ)

岩絵具。右下にある値段も様々!​
岩絵具。右下にある値段も様々!

先ほど、岩絵の具は天然の岩石が材料、と書きました。
実際、カラフルな砂粒を溶いて、絵を描くような感じです。

現代では、天然のものに加え、人口の材料の絵の具どちらもあり、
色数も豊富になっています。
鮮やかなピンクなどは、天然の材料で出せない色ですが、
人口のものを使えばバッチリあるのです。

天然の岩石から作ってある絵の具を
天然岩絵の具
といい、

材料は、例えばこんなものがあります。

緑青(ろくしょう、緑系) → クジャク石

群青(ぐんじょう、青系) → アズライト

辰砂(しんしゃ、赤系) → 水銀と硫黄を含む鉱物

天然絵の具は、自然の岩石を砕いたもの

そして、岩絵の具の面白いところは、それぞれの絵の具が
粒子の細かさの違い
によって分けられてお
り、(番手という)

それによって色合いが変わってくる
ということです。

どの絵の具も大体5,6番(粗い)~13番(細かい)があり、
いちばん細かいものは白番(びゃくばん)といいます。

粒子が粗いものほど同じ色でも鮮やかで濃い色細かいものほど淡く、白っぽい色になります。

絵の具屋さんの棚
絵の具屋さんの棚

この写真は絵の具屋さんの絵の具棚です。

上段は「群緑」という色の、左側が粗め、右側が細かめの絵の具。
下段は、「岩群緑」という色で、同じく右側か細かい番手になっています。

人口の岩絵の具には

  • 「新岩絵の具」=ガラス質の絵の具。カラフルな陶器の粉のようなもの
  • 「合成岩絵の具」=細かな粒子の顔料を、化学的に天然の岩に付着させたもの。

があります。

この違いが少しわかりづらいですが、まとめて人口の絵の具なんだなぁ と思っていいと思います。
それぞれに、天然と同じように番手の違いがあります。

岩絵の具を混ぜるとどうなる?

岩絵の具は、たくさんの色数がありますが、

岩絵の具は、水彩絵の具や油絵具のように、
「薄い緑にしたいから、白を混ぜよう」
といった感覚では描きづらい
です。

というのは、たとえば「緑」の絵の具の粒の大きさが、
「白」の絵の具の粒の大きさより大きい場合、
絵の具を溶いて紙に塗ったときに、「緑」の絵の具が先に沈んでしまう
からです。

同じ理由で、「青+黄=緑」 といった混色も、思わぬ色や効果になることがあります。

そのため、混色をして色をつくるというより(やらない訳ではありませんが)、
欲しい色自体の絵の具を買う

または

色を重ねて塗る
という描き方がメインになります。

この辺りが、岩絵の具の扱いでは独特(かつ、少しやっかい…)ですが、
絵の具の面白さともいえます。

胡粉(ごふん)

Chrysanthemum (1743), Japanese hand fan. Original public domain image from The MET Museum. Digitally enhanced by rawpixel. More: View public domain image source here

日本画の白色は、多くの場合「胡粉」を使います。

これは、ホタテや牡蠣(カキ)の貝殻をすりつぶしてつくったものです。

絵の具屋さんに行くと、胡粉にも色々な種類があります。

胡粉の箱と、絵皿に溶いたもの
胡粉の箱と、絵皿に溶いたもの

上羽・白虎印の胡粉では

  • 飛切(とびきり)」
  • 白鳳(はくほう)」
  • 寿(ことぶき)」
  • 白雪(しらゆき)」

があり、上に行くほど粒子が細かく、塗ったときにクリアな白が出ます。

ただ、分厚く塗るなどすると表面が割れやすい
といったことがあるので、「白鳳」あたりが多用しやすいかと思います。

「白雪」は、主に下地用とされています。

胡粉は、買った状態では、干して乾燥させたときのままパキパキとした板状にくっついているので、
乳鉢(にゅうばち)」と「乳棒」で、粉状に擦って使います。

乳鉢で胡粉をすりつぶす
乳鉢で胡粉をすりつぶす

水干(すいひ)絵の具

水干は細かな粉状
水干は細かな粉状

岩絵の具に対して、「水干絵の具」は、「泥(どろ)絵の具」ともいわれるものになります。

泥という言葉から想像がつくかもしれませんが、
水干絵の具は、岩絵の具よりも粒子がとても細かいです。

絵の具を解くと、岩絵の具はサラサラ、水干はトロトロ、という感じです。

これは胡粉(ごふん)や黄土(おうど)に着色してある絵の具だからです。

材料を水で精製し、干してつくることから、水干という名前になったそうです。
土系の色(土絵の具というのもある)から、鮮やかな色の多いのも特徴です。

岩絵の具と水干の使い分け

一般的には、水干で下地を塗り、その上に岩絵の具で描く描き方があります。

その理由は、

  • 岩絵の具は粒が粗いので、下が透けやすい
  • 岩絵の具が高価だから
  • 細かい絵の具の方が紙に定着しやすい

といったことがありますが、

作家によっては「水干は使わない」という方もいらっしゃいます。
しかし逆に、「岩絵の具は使わない」という方は、少し珍しいです。

というのは、日本画絵の具の輝き、面白さは
「岩絵の具」がもっている
からなのです。
何せ、宝石のような鮮やかな岩が原料なので、
岩絵の具は描いた後、絵の表面がキラキラと輝きます。

ただ、粒子の扱いなどの関係で、経験のない方に扱いやすいのは「水干絵の具」だったりもします。

まずは岩絵の具はマスト!で、
必要に応じて水干も取り入れていくのが丁度いいスタートの仕方
といえるでしょう。

日本画の画材② 【膠(にかわ)】

先ほどから紹介している絵の具ですが、お気づきのとおり、これらは全て粉状、パウダーなのです。
これを、和紙にくっつけるために、「」が必要になります。

膠は、のりの役割といえます。

サラサラ粉状の絵の具に、膠を混ぜて、紙にくっつくようにする。
(この時点で、水彩ならチューブから出した絵の具のようなもの。そのままでは濃くて描きにくいですよね)

それを、水で好みの薄さに薄めて描く


ということになります。

この点が、チューブで売っている水彩画や油絵とくらべひと手間多いですが、
仕組みを理解して使えば大丈夫です。

膠とは、動物や魚の骨を煮出してつくった、ゼラチンのようなもの
昔からの方法では、膠屋さんのつくった固形の膠を、お湯で溶かして「膠液(にかわえき)」をつくりますが、

今はボトルに解いてあるものが売っているので、
初めてならこれでよい
でしょう。

おすすめは、ウエマツさんの京膠です。
魚の骨が原料だそうで、透明度があるうえ、柔軟性もあり、
はがれにくい・割れにくい膠 ということです。

ボトル入りの膠液
ボトル入りの膠液

日本画の画材③ 絵皿

絵の具を溶く絵皿
絵の具を溶くのに絵皿を使う

絵の具を膠で溶くのに、絵皿を使います。
陶器製のものが、表面が削れにくいのでよいです。

日本画の画材④ 【墨】

墨は、大きく分けると

  • 松煙墨(しょうえんぼく)」=青系。
  • 油煙墨(ゆえんぼく)」=茶系。上から水をかけてもにじみにくい、初めのにじみもようはよく出る

があり、

「硯(すずり)」で擦り下ろして使いますが、墨液でもかまいません。
初めは1種類でよいでしょう。
制作に多くは使わない人もいますが、初めのうちは、骨書き(こつがき、線描きのこと)のために便利です。

慣れてきたら、墨のにじみを利用した描き方などもあるので、あるとよいでしょう。

日本画の画材⑤ 【和紙】

左下はパネル張りした和紙
左下はパネル張りした和紙

日本画は、主に「和紙」や、「」に書かれます。

美術館で見る日本画作品のキャプションに、
紙本彩色(しほんさいしき)」と書かれているのは和紙、
絹本彩色(けんぽんさいしき)」は絹の布に書かれている ということです。

どちらも日本画独特のよさがありますが、
初心者は、和紙が扱いやすいでしょう。

「洋紙」である画用紙に比べ、「和紙」は、

  • 原料の繊維が長く、岩絵の具が定着しやすい
  • 柔軟性があり、膠の強い引っ張りにも耐えられる(=破れにくい)
  • 長期保存が可能

という特長があります。

日本画の和紙の原料は、楮(こうぞ)、三椏(みつまた)、雁皮(がんぴ)などです。

中でも雲肌麻紙(くもはだまし)」は麻が入っており、分厚く頑丈なので、多くの現代画家が取り入れていますし、
初心者でも使いやすい
ものになります。

和紙で描く場合、本格的にはパネルに水張りをして、
和紙が水を吸うたびにたわむのを防ぎます。

初心者向けには、パネルに張り込み済みで販売されているものや、ボードに張ってあるものもあります。
(長期的な保存という意味では、パネル張りがおすすめです)

日本画の画材⑥ 【筆と刷毛(はけ)】

丸筆、平筆
丸筆、平筆

日本画の筆は、「イタチ」「狸(タヌキ)」「山羊(ヤギ)」などの動物の毛を使ってつくられています。

油絵の筆などと比べると、ふんわりとした毛で出来ていて、
これは水で溶いた絵の具をたっぷりと含んで、描きやすく
してくれています。

種類も様々にあり、太さや絵の具の含み方が全く違ってきます。

これも、こだわればキリがないのですが、

初めは

  • 彩色(さいしき)」 ―大き目の面を塗る
  • 則妙(そくみょう)」 ―面~細かな部分に
  • 面相(めんそう)」 ―線描きに

あたりがおすすめです。
下に行くほど細い筆です。
細かな描写には、「削用(さくよう)」なども便利です。

また、上に挙げた丸筆の他、平筆(ひらふで)、刷毛(はけ)も、必要に応じて。

職人さんが筆をつくる様子は、とても興味深いですよ!

日本画の画材⑦ 【筆洗】

これはぶっちゃけ、キッチンのボウルやバケツなど何でもよいですが、
一応、日本画用の、陶器でできているものがあります。

縁が丸いので、筆にやさしいと思われます。
気分も上がります。

日本画の画材⑧ 【箔】

Chrysanthemums and Autumnal plants (17-18th century) painting. Original public domain image from the Saint Louis Art Museum.   Digitally enhanced by rawpixel.
Chrysanthemums and Autumnal plants (17-18th century) painting. Original public domain image from the Saint Louis Art Museum. Digitally enhanced by rawpixel.

日本画のイメージとして、「金箔」「銀箔」が使われている、というものがありますね。
日本画に慣れてきたら、ぜひ使ってみましょう。

実は箔には様々な色合いや、使い方があるので、
こちらのページで詳しく紹介しています。

日本画の画材⑨ 【日本画の画材を買えるお店】

下に紹介するのは、東京と京都の日本画材料専門店、有名どころです。

他にも総合画材店「世界堂」や、ネットショップ、
様々なローカル画材店でも扱っている場合があるので、
ぜひ足を運びやすいところを訪れてみてください。

日本画の画材⑩ 【まとめ】

始めるのに必要なものは以下です。

  • 岩絵の具、水干(すいひ)絵の具
  • 胡粉(ごふん)
  • 膠(にかわ)
  • 絵皿

慣れてきたら、箔も試してみてください。

絵の具系は少量ずつでも売っているし、画材屋さんに行けば、始めやすいセットもあると思います。
ぜひ気軽に挑戦してみて、日本画の楽しさを味わってみてくださいね。

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