日本画における雲の役割とは?
日本画や浮世絵、工芸品など、日本美術のイメージにはしばしば、雲が描かれます。
屏風絵などに描かれる、金雲を思い浮かべる方も多いかと思います。
この雲、よく考えてみると、一体どんな意味があるの?
どんな種類があるの?
と、気になってしまいますね。
今回はこの「雲」=すやり霞 について、5つの役割にまとめてみました。
日本画における雲の役割とは何か
場面転換
伊勢物語の中から8つの歌の場面を取り上げ、2曲の屏風にそれぞれの場面が描かれています。
複数の異なった場面を一枚の画面にまとめていきたいのですから、
こんなときに、雲が大活躍です。
この場合の雲の使い方は、「場面転換」といえます。
また、歌を雲の部分に描くという使い方もしていて、効率的かつ見た目に楽しい作品ですね。
伊勢物語の詳細を知らないので判別できませんが、
絵の構成は、おおよそ時系列になっているのではないでしょうか。
異なる場面をこんなに隣同士に配置していながら、日本絵画特有の、近くの物は画面下方に、遠くの物は画面上方にという遠近法も相まって、
それぞれの場面を観る者にうまく想像させるような構成になっていますね。
時間の流れを表す
似ている雲の使い方に、
時間の流れを一枚の絵に表すという役割もあります。
絵巻物などに多く、
右から左に物語が進んでいく場面場面を雲で仕切り、時間の流れがある物語などを一枚の絵画に描くときに使われます。
風景を省略する
この屏風には、この二曲の中に京都の清水寺~祇園までの道のりが描かれています。
画面下の方に、道が続き、当時の京都の様々な階級の人たちが、花見の季節におのおの外出やイベントごとを楽しんだり、生活したりする風景が描かれます。
この屏風での金雲の使い方は、大事な箇所以外を雲で覆ってしまうことで、
・距離を省略する
・余計なものを覆い隠してしまうことで、注目してほしい箇所に目線を集める
といった役割があるといえます。
また、春の平和な都を描くにぴったりの、何とも雅で華やかな雰囲気にも大きく寄与していますね。
ちなみに…こちらのMETの動画では、学芸員さんが作品について解説しています。
この動画の中で、学芸員さんが
「日本の絵画で金雲をみつけたら、それは想像の世界を観るというシグナルだ。想像の空間、想像の時間を描いてるのだ」というようなことを言っています。
そして、清水寺~祇園までの長い距離を、2枚の屏風にまとめていることを引き合いに出しています。
まさに、距離を省略して描きたい風景をまとめて描いているということを、このような表現で評しています。
確かに、見えない部分、隠されている部分=想像がふくらむ部分でもありますね。
余白をいかすという、日本的な絵画表現の仕方といえるでしょう。
雲の間に空間や時間が流れていると、私たちは想像力を働かせながら観ているのですね。
華やかさの表現
ここでの雲の役割としては、
それぞれの植物の枝や花の形を浮き上がらせて描く役割を果たしているとともに、
華やかさ、装飾性を増していることは言うまでもありません。
和歌が上に描かれた、料紙装飾です。(料紙装飾については、こちらでも紹介しています。)
金・銀箔や金・銀泥によって、雲の形が描かれています。
この場合の雲の役割としては、「装飾性」が大きいといえるでしょう。
この作品、31枚つづりになっているのですが、
他の場面もとても雅で面白い画面構成ばかりでしたので、ぜひこちらのMETホームページでご覧になってください!
天を表す
基本的なところですが、天の神様や仏様を表現するのに、雲は必需品ですね。
天女様が雲に乗って降りてくる図像など、思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。
その他、風景の一部(富士山にたなびく雲など)も加えれば、雲の形状には、とても沢山のものがあります。
日本の絵画や工芸品を観るときに、その雲の役割りにも注目してみると、より興味深く鑑賞できますね。
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※掲載している画像は全て、Metropolitan Museum の The Met Collection から取得しています。